オーディオ評論家土方久明氏が語るBLADE
音楽をいい音で楽しむ時間は、何にも代えがたい贅沢なひとときをもたらしてくれる。そして、その体験を支えてくれるのがオーディオ機器。その中でも、スピーカーは音の印象を大きく左右する、大事な存在だ。
今は、世界中の魅力的なスピーカーブランドが手に入るけれど、最近特に気に入っているのが、イギリスの老舗ブランド「KEF」のモデル等だ。同社は、幅広い価格レンジでモデルを展開していて、アンプを内蔵したアクティブタイプも人気だけど、アンプを自由に選んで、自分好みの音を作れるパッシブタイプは、組み合わせの妙を楽しめる。
今回紹介したいのが、そのKEFのフラッグシップモデル「Blade One Meta」。KEFの象徴ともいえる最上位モデル「MUON」に続く存在で、革新的な音響技術と美しいデザインが見事に融合した一台だ。そして、Bladeは世界初のシングル・アペアレント・ソース・スピーカーという特徴がある。詳しくは後述するが、低域、中域、高域が1つのポイントから放射されることで、正確かつ広大なサウンドステージを実現している。
まず目を引くのは、流れるような滑らかなキャビネットの形。継ぎ目のないフォルムは、まるで彫刻のようで、部屋に置くだけで空間の雰囲気がぐっと引き締まる。このデザインは、20世紀の彫刻家ブランクーシの名作「Bird in Space」からインスピレーションを受けているとのこと。
Wikipedia より
とはいえ、Blade One Metaは見た目だけで勝負しているスピーカーじゃない。滑らかな曲面は、音の広がりを邪魔する「回折(かいせつ)」を抑えて、立体感のあるサウンドを届けてくれる。素材には「グラファイト強化ポリウレタン樹脂」という、見た目の美しさと高い剛性を兼ね備えた複合素材が使われていて、まさに見た目と性能のバランスが取れたキャビネットに仕上がっている。
つまり、Bladeのキャビネット形状はKEFのエンジニアが求めた高音質再生の理想を実際に形として表現したものなのだ。
このキャビネットに搭載されるのは、3ウェイ5スピーカーのユニット。ここもKEFの持つ技術が凝縮されている。キャビネットの正面には、同社12世代となる「Uni-Qドライバー」を搭載。高音域を担当するトゥイーターと中音域を担当するミッドレンジを同軸上に配置し同軸配置し、“点音源”による、歪みのない音像表現をプレゼンスする。
Uni-Qドライバーの背面には、「MAT(Metamaterial Absorption Technology)」という技術が搭載されていて、不要な音をほぼ完全に吸収して、クリアで澄んだ中高域を再現してくれる。
低音の再現にも抜かりはない。225mmウーファーを4基、左右対向に配置する「フォースキャンセリング構造」によって、不要な振動を打ち消しながら、歪みの少ない力強い低音を鳴らしてくれる。
世界初のシングル・アペアレント・ソース・スピーカーとされる理由は、同軸型の「Uni-Qドライバー」による中高音の一体感ある再現と、それを補完するように左右対称に配置された4つの低音ドライバーによって実現されているのだ。
こうした最先端の技術が惜しみなく注ぎ込まれているBlade One Metaは、どのジャンルの音楽を聴いても、アーティストや製作者が聞かせたい音や音楽性をありのまま表現してくれるのが嬉しい。
たとえば、ジャズ・ボーカル/ベース奏者として高い評価を得るエスペランサ・スポルディングの『SONGWRIGHTS APOTHECARY LAB』を再生すると、その真価が顕著に現れる。微細なニュアンスまで再現されるボーカルは、スピーカー中央に明瞭なフォーカスをもって定位し、エネルギッシュかつ音階感の豊かなベースラインが、楽曲全体のリズムとドライヴ感を下支えする。
また、音楽的挑戦を重ねながら俳優としても活躍するレディ・ガガの『MAYHEM』では、エレクトロニック・シンセサイザーの鋭いアタック、低域の量感と制動力が際立つ。特に低域は高いダンピング性能によりタイトかつ明瞭にコントロールされ、膨らみのない引き締まった再現が印象的だ。空間の広がりも秀逸で、ステージは三次元的に展開されるのが嬉しい。
さらに、Bladeはクラシック音楽の再生においても際立った表現力を発揮する。映画音楽界の巨匠ハンス・ジマーの作品をオーケストラが演奏する『The World of Hans Zimmer - Part II: A New Dimension』では、音場のスケール感と奥行きのある定位表現により、ホール全体に響き渡るような臨場感が得られる。左右方向の広がりに加え、奥行き方向のパースペクティブも見事に描き出すのだ。
Bladeは、シングル・アペアレント・ソース・スピーカーというアドバンテージを活かして、自然で正確な音像定位と広大な音場、そして良質な低音再生という、スピーカーに求められる多くの要素を総合的に取得し、極上の音楽を提供するスピーカーだ。このスピーカーから流れる音楽性豊かなサウンドからは、ハイエンドオーディオのアドバンテージを如実に感じ取ることができるだろう。
本体カラーは5色、Uni-Qドライバーの振動板も6色の全8色から選べるため、部屋の雰囲気に合わせてコーディネートできるのもうれしいポイントだ。また、もう一回り小型で設置性が高い、兄弟モデル「Blade Two Meta」があることも、記しておきたい。
講師・土方久明(ひじかた ひさあき)について
ハイレゾやストリーミングなど、デジタルオーディオ界の第一人者。テクノロジスト集団・チームラボのコンピューター/ネットワークエンジニアを経て、ハイエンドオーディオやカーオーディオの評論家として活躍中。イマーシブオーディオのリファレンスシステムを自宅に構築し、同分野に深い知見を持つ。
元来一人のオーディオマニアであるため、購入者の視点から製品をレビューすることを信条としている。
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