HiFiスピーカーは「禁断の趣味」という古いジョークがありますが、一度ハマってしまうとなかなか抜け出せないことで知られています。オーディオの完璧さを追求するために、新しい趣味に多くの余分な時間とお金を投資することを厭わなくなります。KEFは一貫してこのような要求に応え、その結果、60年以上前の創業以来、信じられないほどのブランド・ロイヤリティを獲得してきました。
グレース・ロー
Interview Q&A
KEFは、英国を代表するHiFiスピーカーブランドです。そのワイヤレスオールインワンスピーカーシステムは、世界中から高い評価を得ている。このような競争の激しい業界で認められる秘訣は何なのだろうか。
私たちのリスナーは、素晴らしい音の魔法を世界中の人々と共有することに真剣に取り組んでいます。創業者のレイモンド・クックは、以前はBBCのエンジニアでしたが、イノベーションを通じてこの魔法を届けることに夢中になりました。私たちは、コンピュータを使ってスピーカーを設計した最初のブランドです。1989年には、現在も他社の追随を許さない Uni-Q テクノロジーを開発。これは、高周波、中周波、低周波の場所を一点に統合するものです。池に石を落とすようなものです。3つ落とせば波形がぶつかる。1つだけ落とせば、その波形は完璧です。
それが「Uni-Q」に込められた私たちの思いです。長年にわたり改良を重ね、現在では12代目となります。私たちは常に新しいトレンドに目を向け、その流れに対応できるようにしています。ワイヤレス技術やストリーミングサービスの進化など、ユーザーが本当に求めているものは何か、常にアンテナを張っています。そうすることで、競争の激しいこの業界において、私たちは際立った存在になることができるのです。
HiFiスピーカーはしばしば完璧なアコースティックサウンドを目標とする。KEFにも同じことが言えるのでしょうか？
私たちが目指すのは、聴く人に感動を与えるスピーカーです。ライブから映画、さらにはRPGゲームまで、あらゆるシーンで没入感のあるサウンドと魔法のような体験を味わってもらいたいのです。音の性能はもちろん大切ですが、スピーカーは生活の一部であり、生活空間を占有するものです。そのため、時代を超越したデザインと優れたユーザーエクスペリエンスが同様に重要だと考えています。私たちは、スピーカーの箱詰めから機能の設定、そして実際の使用まで、リスナーに完璧なサウンド・ソリューションを提供することに専念しています。
音は好みの問題。絶対的な技術競争力を獲得できない時代に、研究開発投資を続ける必要があるのだろうか。
ユーザーは自分の好みでスピーカーを選びますが、私たちは音の研究を止めません。クリエイターとリスナーをつなぐことを使命とする私たちは、クリエイターの声を最も正確に伝える方法を常に追求しています。Metamaterial Absorption Technology（MAT™）は、まさにイノベーションの象徴です。メタマテリアルという新しい概念によって、スピーカーの背後からの不要な音を99％吸収するのです。最初は巧妙なマーケティング手法のように聞こえるかもしれませんが、その真価を理解していただくためにも、ぜひご自身で聴いて、体験していただくことをお勧めします。
ロス・ラブグローブは2007年に超高価格帯のスピーカー、MUONをデザインしました。10年半以上経った今でも、素晴らしいエレガンスを持っています。KEFはスピーカーの制作において、デザインをどの程度重視しているのでしょうか。
私たちは、時代を超えたモダンなデザインを追求していますが、だからといって、ひとつのデザイン言語に固執しているわけではありません。ロス・ラブグローブの「MUON」も素晴らしいですが、マイケル・ヤング、サー・テランス・コンラン、エリック・チャン、マルセル・ワンダースなど、他の素晴らしいデザイナーとも協力し、デザイン言語を研ぎ澄ましています。
しかし、デザインはスピーカーの見た目の美しさだけではありません。最高の音響技術とも結びついているのです。例えば、サブウーファーは低音を強調するために使われます。しかし、出力が大きければ大きいほど、音量も大きくなることが分かっています。そこで、私たちは Uni-Core 技術によって、サブウーファーをサッカーボールほどの大きさにまで小さくしました。その結果、同じ性能でありながら、より小さなデバイスとなり、美観をより自然に進化させることができました。良いデザインと良いテクノロジーは、別物として考えることはできないのです。
ノースウェスタン大学で化学工学を専攻され、イリノイ工科大学で人間中心コミュニケーション・デザインの修士号を取得されていますね。また、香港科技大学ではMBAを取得されていますね。このような学際的な教育が、どのようにあなたのリーダーシップに役立っているのでしょうか？
私が工学を専攻したのは、物事の仕組みを理解したいと思ったからです。私はいつも科学に魅了されてきました。デザインを学んだのは、人々のためのソリューションを作りたかったからです。キャリアを通じてより成功するソリューションを提供するためには、自分のビジネスを理解する必要があると感じたからです。学際的な教育により、問題解決のための広い視野が身に付きました。ビジネスは非常に複雑です。論理的なものから分析的なものまで幅広い知識が必要ですし、人間を中心としたシステムを見極め設計し、市場や競争の力学に対応する能力も求められます。さまざまな分野を学ぶことは、ビジネスにおいてさまざまなチームと効果的に仕事をするための基礎となっています。
お父様のビクター・ローさんは、香港の有名な起業家です。そのことでプレッシャーを感じることはありませんか？
何かを極めようとする人は、誰でもプレッシャーを感じると思うのです。私はKEFで真剣に職務に取り組んでいます。私は父から多くのことを学びました。彼は偉大な企業家であり、特にその仕事に対する姿勢には目を見張るものがあります。また、困難に直面したときでも、心を開き、冷静に対処することができるのも、父から学んだことです。
KEFはSound of Life (SOL)というサイトも運営しています。音楽やカルチャーを中心に様々なコンテンツが掲載されているが、KEFが運営していることを示すものはほとんどない。まるでインディペンデント・カルチャーのウェブマガジンのような印象です。なぜ、SOLを営利目的で運営しないのですか？
私たちはKEFで素晴らしい音の魔法を共有することを本当に信じています。より繊細な音を本当に聞き分けることができるのはオーディオマニアだけですが、だからといって私たちはそれだけに集中するつもりはありません。私たちはビジネスを継続的に成長させ、新しいリスナーを惹きつけたいと考えています。SOLは、オーディオ初心者やまだKEFを知らない人たちに向けて、厳選されたコンテンツを提供しています。音楽や文化に好奇心旺盛な潜在顧客にアプローチするための方法なのです。InstagramやYouTubeなどのソーシャルメディアの力は非常に強いですが、アルゴリズムは時代とともに変化していくものです。人々をよりよく理解し、よりよいサービスを提供し、強力なコミュニティを作るためには、直接的なネットワークを確立することが必要です。SOLは、こうしたお客様との関係を育むためのプラットフォームを提供してくれます。
少し前になりますが、KEFはノイズを音に変えるプロセスを具現化したNFTを発売しました。なぜ、メタバースに挑戦しようと思ったのですか？
メタバースは無限の可能性を秘めており、私たちはその力を心から信じています。これからも注目していきたいと思います。
KEFの売上のほとんどは、アメリカ、ヨーロッパ、中国からのものです。韓国など他の市場はどうなっているのでしょうか？
市場はそれぞれ異なります。韓国は非常に洗練された国です。プレミアムなライフスタイルを求める人が多く、デジタルの知識も豊富です。その上、韓国のエンターテインメント産業は世界中に大きな影響力を持っています。消費者は高品質な製品を求めています。韓国でのプレゼンスが高まれば、グローバルなビジネスにも良い影響を与えると思っています。
KEFのオフライン試聴室は現在、青潭洞のシェダラザードに設置されている。韓国で専売店を開けない理由はありますか？
韓国は非常にユニークなビジネス環境を持っています。現時点では 、私たちはパートナーと一緒に仕事をするのが良いと考えています。私たちは、お客様に最高のKEF体験をしていただくために、彼らと緊密に連携しています。
これまでの人生を振り返って、満足感はありますか？グレース・ローの未来はどのようなものでしょうか？
まだ完全に満足したとは言えませんが、確実に自分の中で納得できるものが増えてきています。これからも個人的に成長し続けられるようにしたいです。そして、ユーザーの役に立ち、世の中を面白くするような革新的なビジネスモデルやソリューションを常に探し続けていきたいと思っています。
